「顔にワセリンなんて塗ったら、ベタベタしてニキビだらけになりそう…」
「安いし、ただの油でしょ? 高級な美容液の方が肌にいいはず。」
もしあなたがそう思っているなら、スキンケアの「最強の武器」を食わず嫌いしているかもしれません。
実は、皮膚科医が最終手段として選ぶ保湿剤こそがワセリンです。私はサイエンスライターとして、何千もの成分を見てきましたが、「肌の水分を守る」という一点において、ワセリンに勝る成分は存在しません。
今回は、「TEWL(経皮水分蒸散量)」の測定データや、「創傷治癒(傷の回復)」に関する研究を元に、ワセリンの真の実力を解剖します。ニキビへの影響や、決してやってはいけない使い方も包み隠さず解説します。
【結論】ワセリンの科学的評価:世界最強の「物理シールド」
まず結論を言います。
ワセリンには、ビタミンCやレチノールのような「肌を活性化する成分」は一切入っていません。しかし、「肌から水分を逃さない能力」においては、地球上のあらゆる化粧品成分の中でトップクラス(ゴールドスタンダード)です。
研究データによると、ワセリンは肌表面からの水分蒸発を99%近くブロックします。これは、一般的な乳液やクリームを遥かに凌駕する数値です。
つまり、ワセリンは「肌を治す薬」ではなく、「肌が自分で治るための環境を完璧に整える最強のガードマン」なのです。
根拠となる「メタ分析・研究」の全貌
「たかが油」と侮ってはいけません。その効果は数値で証明されています。
どんな研究だったのか?
皮膚科学の研究では、保湿剤の性能を測るために「TEWL(経皮水分蒸散量)」という数値を測定します。これは、肌からどれくらい水分が逃げているかを示す「乾燥のバロメーター」です。
ある比較研究では、健康な被験者の肌に「ワセリン」と「その他のオイル(オリーブオイルなど)」を塗り、水分が逃げる量を精密機器で測定しました。
驚きの検証結果と数値
その結果は衝撃的でした。
- 水分の蒸発を98%以上カット:
何も塗らない状態と比較して、ワセリンを塗った肌は水分蒸散量が98%以上減少しました。 - 他のオイルとの差:
オリーブオイルやラノリンなどの植物性・動物性オイルも一定の効果はありましたが、ワセリンの「完全な遮断力」には及びませんでした。
「ほぼ完全にフタをする」。
これが、アトピー性皮膚炎の治療や、火傷の治療現場でワセリンが第一選択される理由です。
なぜ効くのか?メカニズムをわかりやすく解説
ワセリンの正体は、石油から得られる炭化水素の混合物です。「石油」と聞くと肌に悪そうですが、高純度に精製されているため、実は「世界で最もアレルギーを起こしにくい物質」の一つとして知られています。
細胞の中で何が起きている?:「ラップ」の効果
ワセリンの働きを一言で表すと、「食品用ラップ」です。
- 角質層(肌の表面): 穴の開いたバケツのような状態(乾燥肌)。どんどん水が漏れていきます。
- 一般的なクリーム: 穴を一時的に埋める「パテ」。ある程度は防げますが、完全ではありません。
- ワセリン: バケツ全体を包み込む「ラップフィルム」。水分子さえも通さない強力な膜を作ります。
また、この「ラップ効果」は、傷の治療にも応用されています(湿潤療法)。傷口を乾かさず、ジュクジュクした状態(湿潤環境)に保つことで、「細胞が活動しやすいプール」を作り、傷の治りを早め、跡をきれいに治すのです。
[関連KW]「顔」に使っても大丈夫? ニキビやシミへの影響
ここからは、Google検索で皆さんが最も気にしている疑問に答えます。
1. シミ・黒ずみは消える?
結論:消えません。
ワセリンには美白成分は入っていません。しかし、「摩擦を減らす」という意味で、間接的に黒ずみを予防する効果はあります。洗顔後やマスクによる摩擦ダメージを、ワセリンのヌルヌルが物理的に軽減してくれるからです。
2. ニキビができるって本当?
結論:ニキビ肌の人は要注意(使い方が9割)。
ここが最も誤解されている点です。科学的には、ワセリン自体の「コメドジェニック指数(ニキビのできやすさ)」は高いわけではありません。
しかし、ワセリンは「閉じ込める力」が強すぎます。
もし、毛穴の中に「汚れ」や「アクネ菌」が残ったままワセリンでフタをするとどうなるでしょう? 菌の培養器を作っているようなものです。これがニキビが悪化する原因です。
- 乾燥ニキビ: 効果的ですが、ごく薄く塗るのが鉄則。
- 思春期ニキビ・オイリー肌: 基本的に顔全体への使用は避けた方が無難です。
副作用と正しい使用法:失敗しないための鉄則
「ただ塗ればいい」わけではありません。間違った使い方は、逆に肌トラブルを招きます。
副作用のリスク:精製度に注意
ワセリンは精製度によってランクがあります。
- 黄色ワセリン: 不純物が少し残っている(安価だが、敏感肌には刺激になることも)。
- 白色ワセリン: 医療用として使われるレベル。顔に使うなら最低限これ。
- プロペト・サンホワイト: さらに不純物を取り除いた最高純度。アトピーの方や赤ちゃんの顔にはこれがベスト。
顔に使うなら、迷わず「白色ワセリン」以上を選んでください。
失敗しない使い方:米粒1つを「スタンプ塗り」
ベタつきを回避し、効果を最大化する塗り方はこれです。
- 量は「米粒1つ」: 顔全体でこの量で十分です。多すぎるとテカリや毛穴詰まりの原因になります。
- 手のひらで温める: 手のひら全体に広げ、体温で溶かしてオイル状にします。
- スタンプ塗り(ハンドプレス): 肌をこすらず、手のひらを顔に優しく押し当てるようにして転写します。
タイミングは「スキンケアの最後」。化粧水などで水分を補給した直後に、その水分を閉じ込めるために使います。
よくある質問 (Q&A)
Q1. 毎日塗っても大丈夫ですか?
A. 大丈夫ですが、肌の調子が良い時は不要です。
ワセリンは肌に浸透せず、表面に乗っているだけなので、毎日使っても肌が怠けることはありません。ただ、乾燥していないのに塗る必要はありません。
Q2. 日焼け(油焼け)しませんか?
A. 今の純度の高いワセリンならしません。
昔の精製度が低いワセリンは、不純物が酸化して油焼けの原因になりました。現在市販されている「白色ワセリン」であれば、酸化に非常に強く、油焼けの心配はありません。むしろ乾燥による日焼けダメージを防いでくれます。
Q3. 寝る前に塗ると枕が汚れませんか?
A. 塗る量が多すぎます。あるいは、塗った後にティッシュオフを。
適量(米粒1つ)なら、数分で馴染みます。それでもベタつく場合は、軽くティッシュを顔に押し当てて、余分な油分を取ってください。必要な分は角層の溝に残ります。
まとめ
ワセリンは、決して派手な成分ではありませんが、「水分蒸発を99%防ぐ」という一点において、科学的に頂点に立つ成分です。
- 最強の保湿力(TEWL抑制)
- 肌を修復する「湿潤環境」を作る
- 顔に使うなら「米粒1つ」をハンドプレス
高級なクリームを買い足す前に、まずは薬局で数百円の「白色ワセリン」を試してみてください。翌朝、肌の柔らかさに驚くはずです。
まずは今夜、化粧水の後に「米粒1つ」から始めてみませんか?
参考文献
- Patzelt, A. et al. (2012). “In vivo investigations on the penetration of various oils and their influence on the skin barrier.” Skin Research and Technology. (Demonstrates superior TEWL reduction of petrolatum vs plant oils).
- Lodén, M. (1992). “The increase in skin hydration after application of emollients with different occlusivity.” (Found correlation between occlusivity and hydration).
- Kligman, A. M. (1996). “Petrolatum is not comedogenic in rabbits or humans.” Journal of the Society of Cosmetic Chemists. (Classic study debunking comedogenicity myths).
- Ghadially, R. et al. (1992). “Effects of petrolatum on stratum corneum structure and function.” Journal of the American Academy of Dermatology. (Shows barrier recovery acceleration).

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