「界面活性剤入りのシャンプーを使うと、子宮に毒が溜まる」「肌のバリアが破壊されてボロボロになる」
ネット上には、界面活性剤をまるで猛毒のように扱う情報が溢れています。これを信じて、使いにくい「完全無添加」の洗剤に切り替えたり、洗髪を極端に避けたりしていませんか?
結論から言うと、「界面活性剤=危険」という情報は、科学的には9割が誤解、あるいは数十年以上前の古いデータに基づいています。
もし界面活性剤が本当に毒なら、私たちはマヨネーズ(卵黄レシチンという界面活性剤の塊)を食べるたびに命を落としているはずです。この記事では、化学の視点から「毒性の正体」と「経皮毒の嘘」を暴き、本当に注意すべき成分の見極め方を解説します。
【結論】「毒」かどうかは、成分の「大きさ」で決まる
まず、科学的な結論をお伝えします。
- 界面活性剤そのものは毒ではない:水と油を混ぜ合わせる(乳化する)ための便利な道具に過ぎません。
- 「経皮毒(けいひどく)」は科学用語ではない:洗剤が皮膚から浸透して内臓に溜まるという説には、医学的な根拠が一切ありません。
- ただし、「刺激」には差がある:分子が小さく肌に浸透しやすい「古い成分」と、分子が大きく肌に入らない「新しい成分」があります。これを混同しているのが混乱の原因です。
根拠となる「科学的比較」:ラウリル vs ラウレス
「界面活性剤は危険」と言われる最大の元凶は、「ラウリル硫酸(りゅうさん)ナトリウム」という成分です。しかし、現在の市販品でこれを使っているものは稀です。
似ているけれど別物!分子量の違い
シャンプーの裏面を見てください。「ラウレス硫酸ナトリウム」と書いてありませんか? 名前は似ていますが、中身は別物です。
| 成分名 | 分子の大きさ | 特徴 | 安全性評価 |
|---|---|---|---|
| ラウリル硫酸Na (SLS) | 小さい (肌の隙間に入り込む) | 洗浄力が非常に強く、皮膚のタンパク質を変性させやすい。昔の洗剤の主役。 | 刺激強め (現在はあまり使われない) |
| ラウレス硫酸Na (SLES) | 大きい (肌の隙間に入らない) | ラウリルに「下駄」を履かせて巨大化させたもの。肌表面だけを洗う。 | 安全 (現在の主流) |
研究によると、ラウレス硫酸Naは分子量を大きく改良したことで、皮膚刺激性がラウリル硫酸Naに比べて劇的に低下していることが確認されています。つまり、「昔の危険な成分のイメージ」で「今の安全な成分」まで叩かれているのが現状です。
なぜ「肌に悪い」と言われるのか? タンパク変性作用の真実
それでも「やっぱり肌荒れする」という人は、界面活性剤の持つ「タンパク変性作用」の影響を受けている可能性があります。
タンパク変性とは、生卵がゆで卵になるように、タンパク質の構造が変わって固くなる現象です。
- 強い洗浄剤(陰イオン界面活性剤):汚れを落とす力が強い反面、肌の角質(ケラチンタンパク質)に吸着し、変性を起こして肌をゴワつかせたり、バリア機能を一時的に弱めたりすることがあります。
- 優しい洗浄剤(両性・アミノ酸系):タンパク変性をほとんど起こしません。美容室のシャンプーや敏感肌用洗顔料はこちらが主流です。
つまり、「界面活性剤が悪い」のではなく、「自分の肌体力に対して、洗浄力が強すぎるものを選んでいる」のが肌荒れの原因です。
[関連サジェストKW] 「経皮毒」の嘘と皮膚バリアの鉄壁さ
「シャンプーが子宮に溜まる」「頭皮から内臓へ毒が入る」という「経皮毒」の話。これを信じて不安になっている方もいるでしょう。
しかし、皮膚科学的に考えて、これはあり得ません。
- 皮膚は「排出器官」ではない:皮膚は外部からの異物侵入を防ぐ「鉄壁の鎧(バリア)」です。水さえ通さないこの壁を、数分間のシャンプーで界面活性剤が突破し、血流に乗り、特定の内臓にだけ蓄積する…などという芸当は、ドラッグデリバリーシステムの最新技術をもってしても不可能です。
- 分子量の壁:真皮(血管がある場所)まで到達するには、分子量500以下でなければなりませんが、多くの界面活性剤やその複合体はそれ以上の大きさです。
もし界面活性剤がそんなに簡単に浸透するなら、お風呂に入っただけで人間は膨れ上がって死んでしまいます。
よくある質問 (Q&A)
Q1. 「界面活性剤フリー」の化粧品なら安心ですか?
A. 言葉のトリックに注意してください。 「石油系界面活性剤フリー」と書いてあっても、植物由来の界面活性剤が入っています。また、「界面活性剤不使用」のジェルなども、結局は高分子ポリマーなどで乳化(混ざるように)させています。 重要なのは「フリーかどうか」ではなく、「刺激の少ない成分かどうか」です。
Q2. 石鹸は界面活性剤じゃないんですよね?
A. いいえ、石鹸は「人類最古の界面活性剤」です。 石鹸(脂肪酸ナトリウム)も立派な陰イオン界面活性剤です。アルカリ性で洗浄力もかなり高めです。「石鹸=天然で優しい」「合成=悪」というのも、科学的な根拠のない思い込みです。
Q3. 本当に避けるべき成分はありますか?
A. 以下の3つは、敏感肌なら避けたほうが無難です。 ラウリル硫酸Na:前述の通り、刺激が強いため。 ベンザルコニウムクロリド:殺菌剤として使われる陽イオン界面活性剤。刺激が強め。 高濃度のアルコール(エタノール):界面活性剤ではありませんが、バリア機能を緩めるため、セットで入っていると刺激が増します。
まとめ
界面活性剤に関する科学的事実は以下の通りです。
- 「界面活性剤=毒」は嘘。マヨネーズにも含まれる身近な成分。
- 「経皮毒」は疑似科学。シャンプーが内臓に溜まることはない。
- 今のシャンプー(ラウレス硫酸Na)は、昔の成分(ラウリル硫酸Na)とは別物で安全性が高い。
【Next Action】 今お使いのシャンプーや洗顔料の裏面を見てみましょう。「ラウレス〜」「コカミド〜」「〜ベタイン」といった成分が並んでいれば、それは十分に安全性が考慮された製品です。安心して使い続けてください。
参考文献
- Bondi CA, et al. Human and Environmental Toxicity of Sodium Lauryl Sulfate (SLS): Evidence for Safe Use in Household Cleaning Products. Environ Health Insights. 2015;9:27-32.
- Löffler H, Happle R. Profile of irritant patch testing with detergents: sodium lauryl sulfate, sodium laureth sulfate and alkyl polyglucoside. Contact Dermatitis. 2003;48(1):26-32.


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